「ここでやめたらおもしろくない」突然の銭湯経営。手探りの日々
「まさか銭湯経営がここまで厳しいなんて思わなかったですよ」。「名倉湯」店主・平岡義久さんは2019年12月、突然この名倉湯を引き継ぐことになった。「雨の日なんて、湯沸かして待ってても誰も来ないですから」。平岡さんはそう言葉を続けながら、開店準備に忙しく手を動かす。近くの京都市中央市場でひと仕事終えた常連客が、開店時間の12時を待たずやってくるからだ。
元々家業として銭湯のボイラー修理などには携わってきたが、番台の業務などは全くの素人だった。これまで長く手伝ってくれていたパートの女性を頼りにしつつ、どうにかこうにか湯を沸かし、暖簾を出す日々。そんなさなかにコロナ禍が直撃した。「いっそのことやめたほうが早いけど、そんな風に考えてもおもしろくないですしね」。そう気持ちが前向きになったのは、ある出逢いからだった。
常連客に連れられて初めて名倉湯を訪れた若い男性。スーパー銭湯ならまだしも、町の風呂屋など馴染みがなかったという。しかし、なんとその彼が名倉湯の大ファンになってくれた。「最高の町風呂です!」。ネットにも口コミをアップして、良さをアピールしてくれた。それが平岡さんにとって大きな励みになったという。
名倉湯のセールスポイントは、110℃と高温のサウナに大きくて深い水風呂。地下水を汲み上げて沸かす水質も自慢だ。最近、剥げていた浴室の天井を塗り直した。「次は脱衣場の壁もキレイにするつもりで、少しずつお金を貯めてます」。目下の課題は、常連客の居心地の良さをキープしながら、今まで名倉湯を知らなかった人にも来てもらうこと。今年7月にはインスタグラムをスタートさせ、鏡広告の広告主を募ると5件も応募があった。「呼びかけたら誰かは応えてくれるんですよね。まずはいろいろな人に名倉湯のことを知ってもらいたいです」。平岡さんの挑戦は続く。
日が落ちると赤く輝く大きな「サウナ」のネオン看板が目印
花屋町通西大路西入ルに暖簾を掲げて50年以上。大きな「サウナ」のネオン看板は、日が落ちると赤く輝く。塗りたての明るい水色の浴室天井は「気持ちがいい」と大好評。ジェット機能の付いたメインの浴槽のほか、電気薬風呂、薬風呂、水風呂、サウナがある。お湯は毎日交換!いつでもキレイな水質には絶対の自信有り。
レトロな昭和の味わいが残る脱衣場。昔ながらの番台式というのも今どき珍しい。子ども客にはラーメンくじのサービスを始めた。「とにかく1人でも名倉湯ファンを増やしたい」と平岡さん。
高温のサウナは“ととのう”と評判。常連客から進呈された新しいサウナマットが眩しい。