わたしと店のはなし 第14回「変わらない」日用品の店[ロク]


店名の「ロク」を漢字で書くと、「陸」になるのだそうだ。意味は、土地や物の面の平らなことやそのさま。また、気分の平らかなこと、安らかなことも指す。2010年の開店以来、「ロク」は、この「陸」を目指してきた。扱うのは日用品。しかも店主の橋本さん自身が実生活で使い、特徴や丈夫さなど納得できるものを店内に置いている。ラインナップは開店時からほとんど変わっていない。「熟知しているものだけを扱っています」。

橋本さんは、店の方針をこう話す。「新しい商品を探して店に置こうとすると、私自身がよくわかっていない物をお客様へおすすめして販売することになる。それはしたくありませんでした」。橋本さんの接客は、商品のスペックや知識など、表面的な情報を伝えるだけにとどまらない。使い心地や温度感、微妙なニュアンスなど、「物を使う」という体験から検証した生活者としての感覚を、あくまでも実際のコミュニケーションを通じて伝える。だから時には、取り扱う品の弱点を伝えることも。

そのためにも、長い時間をかけて商品を使い込むことが必要になる。一見すると商売にしては頑なにも思えるが、「ロク」と橋本さんにとってはこれが調和のとれた形なのだそうだ。「取り扱う品が変わらなくても、世の中やお客様が変わっていく。そのときに、確かな物をしっかり売りたい」。

一方で、橋本さん個人は変わることを厭わない。店の外で、様々な刺激を受けて自身の引き出しを増やす。すると自然と店の風通しもよくなる。コロナ禍では、ネット通販を開始するか悩んだという。しかし、やらなかった。インターネットに情報だけを載せて物を売ることは、どうしてもできなかったからだ。日常で使う物だから、実際に触れて、納得して買って欲しい。その思いは変わらない。

生活用品のほか、腕時計や靴下など身につける物も


取り扱う食器は、山陰や九州、沖縄の民芸の窯元のものが中心。開店準備期間には自ら車を運転して窯元を回り、直接取り引きを申し出たそう。今でも買い付けの際には直接窯元へ赴いて、お互い近況報告をし合うという。写真の鳥取の延興寺窯の品は、民芸の窯元ながらスマートな佇まいが魅力。トースト皿や洋食皿など、「ロク」提案の食器もあり、橋本さんのリクエストがところどころに反映されている。

生活用品のほか、腕時計や靴下など身につける物も取り扱う。もちろんこれも橋本さんが実際に愛用している品々。定番品ばかりなので、買い足しにも好都合。

丸太町通沿いにあるヴィンテージマンションの1階が店舗。