裏寺から出町柳へお引越し。食べて楽しい夫婦それぞれの味


「トントントンと話が進んで」。裏寺で5年に渡り愛された「つなぐ食堂」が出町柳駅近くに引っ越したのは昨年4月のこと。もともと別の店に勤めていた夫の望月さんの独立がきっかけになった。それまで妻の伊豆原さんひとりで切り盛りしていた店に望月さんが加わり、店名の下には小さく「自然派ワインと純米酒、世界のおそうざい」と新たに書き添えた。純米酒は裏寺時代から扱っていたが、今は望月さんの目利きで自然派ワインも取り揃えている。野菜を主役にした惣菜と、デザートやお菓子は伊豆原さん、シャルキュトリーなどのメイン料理は望月さんの担当。スパイスやハーブ、出汁などを用いて素材のおいしさを引き出す伊豆原さんの惣菜は、和洋中の枠を超えた自由なアイデアが楽しい。「パッと見てうれしくなるような料理になれば」という言葉通り、皿の上には〝食の歓び〟が満ちている。一方、酒呑みのツボをしっかり押さえた望月さんの料理は、一度食べたら忘れられない味。パテには挽き具合の違う3種類の豚ミンチと鶏レバーを使い、たっぷりのパセリとにんにく、スパイスを練り込む。メニューひとつひとつに、望月さんのこれまでの経験と理念がたっぷり詰まっている。作る人と食べる人、食べる人と呑む人をつなぎたいという思いのこもった店名は、夫婦で店に立つようになって少し意味が変わってきたそうだ。「他の飲食店とコラボ企画をやったりして」。店と店をつなぐ役を買って出たのは望月さん。「いやあ〝つなぐ食堂〟、素晴らしい名前ですよね」。冗談めかしてそう言う望月さんを、伊豆原さんが慣れた調子でさらりと受け流す。「前の場所では何でも自分ひとりでやっていたけど、ここに移って人の手を借りることを覚えました」。子育て真っ最中。ひとりじゃない楽しさも、ままならなさも、夫婦ふたりだからやっていける。

ひと皿にふたりの味覚がミックスされたお惣菜盛り合わせ


ランチに昼酒にカフェ利用、しっかりごはんからちょっと一杯まで幅広く頼れるのがうれしい。夜昼共通の「世界のお惣菜盛り合わせ(1,045円)」は、定番の酒の友や季節の野菜を使った惣菜約10種類が味わえる。薄味好みの伊豆原さんとパンチのある味付けが好きな望月さん。ひと皿にふたりの味覚がミックスされているから、最後まで食べ飽きない。

カウンターのほかテーブル席もあり、ゆったりとした空間が心地いい。

移転オープンしたのは2020年の4月。ちょうど緊急事態宣言下真っ只中の船出に、「不安や不自由、影響はたくさんあったけど、今となっては思い切って行動してよかった」と伊豆原さん・望月さん夫妻。